歯医者さんの椅子に座ると、気を失ってしまうほどの母が、
インプラントを選択した。
インプラントって、骨に穴を開けてチタン製の人工歯根を植立するんだろ。俺は怖くて嫌だな。」と言う父。
「今は完全滅菌した道具でほんの少しだけ骨を削るだけで、特に入院も必要ないし、親知らずを抜くよりも楽らしいわよ。」と返す母。
「結構高いって聞いたぞ。うちにそんな余裕ないだろ。」と反対する父。
「手術代から最後のかぶせ物までで30万円くらいだから1本と考えると少し高いように感じるけど、抜けた両隣りの健康な歯を削って3本つながりのブリッジを入れても金額は同じくらいかかるのよ。余裕があるわけではないけど、健康への自己投資だと考えれば少し貯めておいた預金があるわ。」と返す母。
「30万もかけてすぐにだめになったりしないのか?」と懐疑的な父。
「歯をだめにする一番の原因は何だか知ってる?歯を削ることなのよ。ムシ歯になっていない両隣りの歯を削ってしまったら、歯の寿命は極端に落ちるし、抜けた歯の仕事までしなくてはいけないから、10年ぐらいで歯がだめになることもあるの。」
「力も入るからどんなものでもバリバリ食べれちゃう。今まで小さく切らないと上手く噛み切れなかったから遠慮していたけど、今度から月に1回はステーキも食べに行きましょう!」と、悪戯っぽく笑う母。
「無駄な投資はしないおまえが選んだ治療だからきっといい選択なんだろうな。」
「あなたがいつも堅実に働いてきてくれたおかげね。ありがとう。」
・・・父は納得して今の車を次の車検まで乗ろうと決めた。
歯を失った時、従来の方法はブリッジ(固定性義歯)と入れ歯(着脱式義歯)です。
1つ目は固定性のブリッジです。失ってしまった歯の両隣の健康な歯を削って、かぶせ物をして橋をかけるために、ブリッジと呼ばれている治療法です。取り外したり、硬い食べ物でも違和感なく、美味しく食べることができます。
しかし、ブリッジにも問題点がいくつかあります。まず、支える歯の周囲を削って被せ物をするので、健康な歯を削らなければならないというデメリットがあります。
また支える歯にはそれぞれその歯ごとの動きたい方向があるのですが、ひとつの装置で固定してしまいますので、その動きを規制してしまいます。そのアンバランスな力が何処に集中するかですが、被せ物と歯の間に集中した場合には外れてしまったり、外れかかったところから内部にムシ歯が進行することもあります。
ブリッジとは結局、どんなに小さなブリッジでも、1本無くなってしまった歯を両隣の歯で支え、これまでは3本でこなしていた仕事を2本でこなすことになります。少しの間であれば、頑張ることもできそうですが、支えている歯には大きな負担がかかり、状態にもよりますが10年ぐらい経つと支えている歯が耐え切れなくなる場合もあるようです。
また、固定性ですので、外して掃除をすることはできません。掃除がいい加減ではブリッジの下は細菌の温床になってしまい、支えている歯の寿命が短くなったり、全身疾患の引き金になったりします。
2つ目は、取り外し式の入れ歯です。保険内の義歯は非常に安く、手軽に作ることができます。しかし、入れ歯には様々なデメリットがあります。
失われた歯だけではなく、周囲組織である歯肉や骨まで補い、力を歯牙だけでなく顎骨で負担しますので、補う歯の本数が多くなればなるほど、大きくなり違和感が強くなります。覆われる範囲が多くなりますので、とても違和感があり食べ物の味や熱さを感じにくくなってしまいます。
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